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VIVA MICHIHICO MIGUMI                    

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  『源氏物語』宇治十帖〈浮舟〉の沈黙… それから乃これから
         +
     P E A C E P i E C E

                     ピース ピース








         ・・・・『 贋 紫 源 氏 物 語 』へ 、ようこそ ・・・・





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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 008
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_ ルテンする無口なタマシイ
Icon_ 簪の蛇はバラ窓を開く
size_ 545×424mm 2024



死して浮遊し、変遷をしながら新たな肉体へまた宿ると言われるタマシイの本気度を、あるいは嘘パチかも知れないことを考えているうち、ふッと幼いころに見た蛇の泳ぎっぷりを思い出してしまった。広い川面の上をゆったりと辷ってゆく蛇の姿はむろんのことだが、あとへ残した美しい波形が見事であった。なぜそのようなことを思い出したかは解らないが、新たな母となる母胎のバラ窓へ向かい一心不乱に流転してゆく無口な宇治十帖〈憂き姫〉の、或いは紫式部のタマシイとはそのように健気なものであったろうに… それら、具現化してみました。







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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 007
                『 P E A C E P i E C E 』        
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---------------- 源氏物語、宇治十帖〈浮舟〉の沈黙… かの女性(浮舟)のゆく先がどうしても掴めないまま、一年はあっという間に過ぎてしまった。なぜであれば「パラダイスを遠く離れて」が当初からの眼目であったがため、その人のゆく先ばかりを考えていたからだった。けれども、パラダイスは存外と近くにあったのである。

散っても地上でなお咲いている椿の花は、希望の花と知る。だから浮舟も好きであろうと勝手に妄想しながらその椿を一つひとつ拾って歩いているうち、妖しいほどに黒ずんだのを拾ったとたん、私は原初的なる神々の森へと迷い込んでしまっていた。と同時に、オランダ出身の画家チブ・ホーフヒムストラの作品集『Ilslands/島』に書かれてあった序文のコトバを思いだす。以来、そのコトバが離れなくなってしまった。

     チブ・ホーフヒムストラがイメージの要素を
     そのまま残したり、省いたりするプロセスは
     ちょうど毛虫が蝶に変身する際の"細胞の死"
     つまりとアポトーシスに似ている。
                ----------------スラフカ・スヴェラコヴァ博士

アポトーシスをより詳しく調べてみると、「アポトーシスとは個体をより良い状態に保つために引き起こされる積極的な細胞自殺!」とあった。また、語源であるギリシヤ語 apoptosisの
第2番目の「p」は黙字(サイレント)であると記してあった。

総じて、彼女の孤独から引き出される言うにいわれぬ黙字「p」の無言・無声は、大自然なる沈黙の森で、たぶん、もう孤独であることをやめるであろう。けれどもそう簡単に心を開き、思いのたけを述べるだけの語彙や文法を持つまでには至らない。ほんとうの意味での彼女の蘇生は、深い森のなかでサナギがじっと静かに眠っているような"森の時間"を経なければならない。みずからの魔はみずからの意志で殺し切りおとさないかぎり、絶望はより深まってゆくはずであるから。

ところで、無手勝流で読んだ源氏物語を思い返せば、浮舟はふたりの男に愛されて、入水するほどの錯乱状態から横川の僧都に助けられ、なお深い森をめざし、途中、乞食(こつじき)の聖である空也と出会ってひとしきり踊り狂うも、都という平地文化が色濃く残った六道の辻を揺れてゆきかう男女の戯れがもどかしく、ひとり紅い花を拾っては、山の奥へ、奥へと歩いて行かなければならない業のようなものを、彼女はすでに持っていた。

浮舟の父親は桐壺帝の第二皇子である光源氏と異母兄弟をなす第八皇子の八ノ宮だが、浮舟の母親が身分の低い女性であったがため、八ノ宮はそのことを恥、浮舟を我が子だと認めたくない過去を持っている。おまけに、八の宮は光源氏とは敵対する右大臣家・弘徽殿の大后(桐壺帝第一夫人)の権力闘争に利用されるも、道半ばで投げ出されてしまうという哀れさであった。そんなふうな父親をもつ娘の心情とはいかなるものであったろう。父を思慕しながらも、その不誠実さと意志の弱さを幼いころからすでに見抜いていたのではないだろうか。そんな自身の生い立ちをもって、薫ノ君や匂宮ノ君をみてはいなかっただろうか。ならば、彼女の久遠の春は一体どこにあるのだろう。紅い花を拾っては、山の奥へ、奥へと歩いて行かなければならない「もののあわれ」を一身に背負った女のいのち、その人の夢とはなんであろうか…

源氏物語をこんなふうにみるとき、私は紅い椿の花が咲きほこっている深い森全体をひとつのサナギとたとえ、さらには、その森でもってやがては羽化するであろう眠り姫・浮舟がどのような樹木をみつけ、どのような糸を掛け、どのような夢を吐き、私のこころ惹く蝶となっていってくれるのか、と唯そのことばかりを思うのであった。それはあたかも、三重苦であったH・ケラーが嘔吐のごとく発した叫び声「 w - a - t - e - r - ! 」のような語彙をもって、姫自身が苦悩するたましいは姫自身で救済し、新たな和歌としての文法、三十一文字(みそひともじ)で詠いあげる花のごとき柔らかな歌声を聞いてみたいと望むからであった。それが為の処方箋は、私自身が確かな絵筆を握ることであろう。だが、その絵筆はまだ見つかってはいない。
                         ---------------- 佐藤三千彦 2023_4_8




                                  



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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 007
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_ 妖 花
Icon_ 空也聖獣
Pincil_ 410×295mm 2023 




    『妖 花』

ポタリと散りても
落ちてまた咲く
ふたたびの花
その花
じりじり動く

翔て走って
山路をくだる
ゆび笛鳴らした
えんのおづぬの
風のせい

どれどれ
ただの紅ではござらぬな
落ちて二度咲く
ふたたびの花
ありゃ 椿の花じゃ


*詩の表題を『妖 花』とはしましたが、落ちて地上でなお咲く椿は私にとって一つの〈希望〉であ り、〈力〉です。








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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 006
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_ お吟と右近
Icon_ みんな通り過ぎてゆく
Acrylic gouache_ 910×610mm 1988




    『みんな通り過ぎてゆく』

冬がせまり来た
心おぼえのある道を すこし歩いた
突然 枯葉の匂いがプンと漂う
思わず 足を止め
黄葉が散っているその真ん中へ立ち 
土の匂いを嗅ぎ 深呼吸した
そしてどこまでも また 歩いた

つややかな赤いグミの実がいっぱいだ
名前の知らない あの赤い実はなんだろう
うろちょろと ハトが行手を遮った
わたしが避けて歩けばいいのだ

イヌシデ コナラ 山紅葉 クルミの樹

カリンは黄色い実をつけて 青空に映えている
柘榴は無惨に腐敗する
みんな通り過ぎ また帰ってくるだろうか
おや 薮椿! 可愛い蕾の赤ちゃんだ
数えきれないほど眠ってるな
「雪が降る日にまた逢おうぞ」と
わたしの心をかりたてた









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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 005
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_ パラダイスを遠く離れ
Icon_ 冬の花骸
Acrylic gouache_ 727×545mm 2016




    『パラダイスを遠く離れ』

腹をすかせた獣は
人間の住んでいる里へ出て
柿や栗を盗んだ

幸をなくした女は
都を捨てて山へと入り
獣に食べられることを願った

獣は人間に打たれ
女は空しく歩いた

知りえない柿を 栗を 食べ
知りえない悦びへ 近づいていた
獣も 女も 唯 生きて








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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 004
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_ 夏の宿題
Icon_ ワゴン・リーの小部屋
Acrylic gouache_ 340×250mm 2021




    『夏の宿題』

ギリシヤ神話に登場する光の青年アポロンに似た宇治十帖の匂宮。その匂宮にそっくりな庄屋さんちのガキ大将の源氏螢虫太郎はあさましく。あるいは、太郎の母親が港町の顔役とひそかに通じあって孕んだ平家螢虫次郎はねじくれて、これまた宇治十帖の薫のようだ。二人は太陽と月、まるで違う異父兄弟であった。

鏡に映った愛すべき少年たちは、右の手は左、左の手は右であり、悪い奴ほど手は白かった。

彼らはたえずほんとうの兄弟であろうとして、太郎の家の築山の奥にあったひんやりした青い竹薮の中の大きな石の上で、ことあるごとにチンコ合わせをした。ちびた鉛筆のようなチンコの尖端が触れるたび、軽金属の針にも似たジュラルミンの翼を背筋に感じて、クラクラと、二人は溶けていった。けれどもあさましく、あるいは小賢しい太郎と次郎であったから、そのたびごとに憎しみあって、白い右手の左手で、ジュラルミンの守護天使たちを互いの手刀でもって殺害した。

虚しくも、擬死する欺瞞の腹いせに、太郎は次郎に隠れ、次郎は太郎に隠れて、浮舟という名の姫螢を誘った。けれども、下腹部への教育はいまだ知らず、太郎は松葉の二角形で浮舟を犯し、次郎は真珠色の貝殻でもって少女・浮舟の部位を汚した。

よく学び、よく遊べ! 

これが夏休みの、ぼくときみとの自由研究『げんじものがたり」古典読破法であり、実践とお勉強とを編み込んだ、まことに厄介な夏の宿題をまずは簡単にすませるよき方法論であった。








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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 003
                『 P E A C E P i E C E 』        
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poem_舟と舟のあいだを漂ふ舟
con_イーハトーブ(ihatov)
Adobe Photoshop + Illustrator_



   『舟と舟のあいだを漂ふ舟』

平安の末期って ちょうど平成の後期!
中世の入口は 令和の時代 いまごろでしょうか?

そんな中世の 乱世の 令和という崖の道を
よろよろ歩く弱法師が 見晴台から海を臨んだ
弱法師は盲目だからなにも見えなかったが
世の中はすっかりと・・・ つまり
・・・世の中って 人工的な全世界のことであるが
いつのまにか狭くなって 息苦しく 隙なく
一つのちいさな村社会になり下がったな と
見えない目をこすって 嘆いた

臨めば 海には軍艦が浮かんでいて
軍艦と軍艦のあいだには千変万化な小舟がプカプカと
なんにも知らずに浮いていた

弱法師はこの崖っぷちを登ってくるまえに 
面白いものを見たような気がする
それは一本の樹木に二匹の蝉がいて 一匹は
はち切れんばかりの体格で 
じっとしていて いまにも羽化しそうであった

もう一匹は発育不足で 前翅も後翅もカールして 
どの翅も未発達のまま変形している
なんの因果でこうなっちゃたんだろうか と
這って飛べないでいる蝉に 末期の水と思い 
水筒のなかの水をあびせてやった

そんなふうにしてから 
樹木の隙間からひろい海が臨める石の上で弁当を喰った
そして しばらく眠った

さて 二匹の蝉はどうしているだろうか と
もう一度もどってみると 
エリート顔した羽化寸前の蝉はもういなかった
はは〜ん 泥棒はさっきまでウロウロしていた鴉だな

ところで 因果な蝉はどうだろうかと思えば 
そのままの格好でジッとしていた

 (美しいものから狩られてゆくんだ)

こんなに暑い夏の日の午後 明日まではもたないだろうが
因果な蝉は今 ひろい青空を眺め すずしい風にふるえている
生まれついての資質はまったく違うけど
蝉と蝉のあいだで漂っている蝉たち! 
どれもがみんなそれぞれの〈いのち〉です

そうそう あれはいつだったろうか
今日のこの日は
水爆という爆弾を爆発させた日によく似ていると思った

ドドドーン ドン!と 平家の舟の太鼓が鳴った
ドドドーン ドン!と 源氏の舟の太鼓が鳴った

軍艦と軍艦のあいだには千変万化な小舟がプカプカと
なんにも知らずに浮いていた



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*Illustrationは:東日本大震災における、原発反対の為のポスター『イーハトーブ/らなよさつぱんげ=げんぱつさよなら!』です。





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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 002
                『 P E A C E P i E C E 』        
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Ipoem_歓喜の訪れ
con_宇よく見てよく聞きよく歌う三ツ目西行(puer eternus)
Mixed media_545×424mm 2022




   『歓喜の訪れ』

昨日は橋のたもとで空也上人が口から焔を吹いて、六体のちいさな仏像を、手品師が鳩を飛ばすがごとく吐いてみせた。今日は花の下で西行法師が歌を詠っていた。明日はたぶん、河原にて一遍上人がはねよおどれよと鉢を叩き、念仏(生きとし生けるものたちへの光)にあわせながら軽々としたステップを披露するだろうに・・・ 彼らは一切を捨てて諸国をまわり、宗派をこえ、歌や踊りや念仏によって世俗のケガレをキヨメつつ、権力のおよばない場をつくろうとしていた。そのことは、あらゆる人々をみな平等に救いたいという新たなコトバと身体による記録、思想であった。
身分も秩序もうちやぶってゆく鎌倉時代の新仏教に、平安の女たちは敏感であった。ことに『源氏物語』の著者レディ・ヴァイオレットがつくりだした彼女自身の分身であろう〈浮舟〉は、酔いに酔っていた。

どこへゆけばいいの・・・と平安末期の呆けた男たちへむかい、強いられた沈黙でしか抵抗できなかった〈浮舟〉の恋ものがたり。その恋は、沈黙は、デカダンスな男たちから生じた霧ふかき女たちの翳りであって、精神の崩れでもあった。あはれ、と一日千秋のおもいで夢想しつづけた歌と踊りと念仏への歓喜の訪れ! が、今日という只今の刹那に、無用の用たる男たちの登場によって柔らかなものへと変化してゆく平安末期の女性の愉悦。そは、無用の用とは濃密!と言うこと・・・ 栄華と戦いにあけくれる男なんぞより、いつの時代も必要とされる「からっぽな愚者(永遠の少年_プエル・エテルヌス)」たちのほうのが微笑ましく、浮舟はよほどよいと思っていた。歓喜の訪れであった。






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       宇治十帖〈浮舟〉の沈黙・・・ それから乃これから Vol : 001
                『 P E A C E P i E C E 』        
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Ipoem_干涸びた沈黙
Icon_新しい天使(アンゲルス・ノーヴァス)
Acrylic gouache_572?423mm 2021




   『干涸びた沈黙』

宇治川を流れてゆく君のほんとうの姿を
ぼくは知っているんだ
三千年前の君とすこしも変わりはしないから

ダーダネルス海峡は碧く
風が激しく耳もとで鳴っていた

雛罌粟の丘にたたずむトロイア城が陥落する前夜
君たちは木馬の陰で夢見るために話し合っていたよね
しかし突然 恋人のアイネイアスが逃げようと言い張った
身の毛もよだつ木馬の腹にたぎっている
火と血と灰の透視を君は訴えてはみたものの
逃げてゆく恋人に付いてはいけなかった

アイネイアスは部下を率いて
異国の地で英雄となるべく去っていった後 
君は 「邪悪な木馬に火を放て!」と声を嗄して叫んだが
誰ひとりとして信じるものはなく 
愚かなおしゃべり女め! と 嘲り笑われた

ぬばたまの黒髪 あるいは瞳
美しく 白い首をかたむけている君

無惨にも 獅子門の前で殺戮された
中東の姫君の〈血〉の一滴が
宇治川を流れてゆく君のからだに流るゝことを
君は君自身 干涸びたその沈黙の乾きを知るだろうか

ああ 光が消えかかっている
けれども 日々 読み返すであろう君が痛みを 

三千年前に送ってくれた君の手紙
一千年前にも送ってくれた君の手紙
どちらもおなじ筆跡の
どちらも無口なランジャの香り

おお ついに光が消えてゆく
泡沫のゴンドラに乗った姫君よ また会おうぞ
舟はゆく そして舟はゆく
光が消えた 光が消えた











                     *
                     * *
                     *






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雲間に輝いた”天使の梯子”!!
すぐ消えていく、一瞬のできごと・・・